一般に、相続が発生した場合には、現行の民法その他の法令により相続関係を巡る権利や義務が定められることになります。

しかしながら、相続開始時期によっては、当時の民法が適用さえる結果、現在の民法の規定とは大きく異なる形で相続が行われることになります。

我々、司法書士や弁護士のような法律の専門家であっても、通常試験科目に入っているのは現行の法律に限られますから、実務経験の乏しい専門家や一般の方の場合、こういった点を見落としてしまうことがあるので、十分な注意が必要です。

相談事例

Xさんは、築100年近く経過している実家の建物を取り壊して、建物を新築したいと考えています。これまで、土地や建物の固定資産税などはXさんのお父様Aさんが払っており、おそらくAさんの名義になっているものだろうと思っていました。
お父様がなくなり、しばらくは土地建物の名義を変えることはなく、数年後、実家の建て替えを検討するに至りました。
住宅メーカーを回り、商談をしている過程で、Xさんの実家の土地建物は祖父Bさんの名義のままで、一度も変更されていないということです。

その後、市役所に出向き、戸籍をたどって確認してみたところ・・・

  • 祖父Bさんには、子供が8人いた。
  • 祖父Bさんは、昭和20年に死亡した。
  • 8人の子供のうち、長男である父Aさんも含め子供5人はすでに亡くなっている。
  • 亡くなった子供(Aさんの兄弟)の法定相続人は分かっているだけで15人いる。
  • 父Aさんの相続人はXさんと妻であるXさんの母Cさんのみである。

「祖父Bさん名義の土地建物をXさんが相続するには、Xさんと母Cさん以外にBさんの存命の兄弟3人と死亡した兄弟の相続人15人の計20人全員が同意し、遺産分割協議をしなければならない、ということになりそうです・・・。」

Xさんは、ある住宅メーカーの担当者から、このような助言をされ、絶望的な気分になっていまいました。

「そんなに大勢の人からハンコなんかもらえるだろうか・・・。」

 

昭和22年5月2日以前の相続開始 (家督相続)

旧民法(家督相続制度)が適用になります。

家督相続制度の下では、家督相続人1人が、前戸主に属する一切の権利義務を包括的に承継するものとされていました。

つまり、相続人の中でも、特に家督相続人とされた1人だけがすべての財産を総取りする、というものです。

家督相続は以下のケースで開始します。

  • 戸主の死亡、隠居、国籍の喪失
  • 戸主が婚姻又は養子縁組の取消しによりその家を去った
  • 女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚した

家督相続は、ある人の死亡以外でも相続が発生する点も、現在の民法とは大きく異なります。

事例の場合、祖父Bさんがなくなったのは昭和20年ですから、この時点で適用されるのは旧民法、つまり、家督相続人が全財産を相続するということになります。Xさんのお宅の場合も、長男である父Aさんが祖父Bさんの家督相続人となっていたため(戸籍に記載あり)、結局、遺産分割協議はXさんと母Cさんの二人で行えば良いということになりました。

このように、昭和22年5月2日以前に開始した相続の場合、旧民法(明治31年7月16日施行)により、相続関係が決められることになります。

家督相続の順位

  • 第1 第一種法定推定家督相続人
  • 第2 前戸主が生前に又は遺言で指定した者
  • 第3 第一種選定家督相続人
  • 第4 第二種法定推定家督相続人
  • 第5 第二種選定家督相続人

その他、相続開始時期により適用される法律

昭和22年5月3日~昭和22年12月31日以前に発生した相続

日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(応急措置法)が適用されます。

応急措置法で定められて法定相続分は下記のとおりです。

  • 配偶者と子が相続人 → 配偶者3分の1、子3分の2
  • 配偶者と直系尊属が相続人 → 配偶者2分の1、直系尊属2分の1
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人 → 配偶者3分の2、兄弟姉妹3分の1
昭和23年1月1日~昭和55年12月31日以前に発生した相続

新民法(改正前の法定相続分)が適用されます。

  • 配偶者と子が相続人 → 配偶者3分の1、子3分の2
  • 配偶者と直系尊属が相続人 → 配偶者2分の1、直系尊属2分の1
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人 → 配偶者3分の2、兄弟姉妹3分の1
昭和56年1月1日以降に発生した相続

現行の民法が適用されます。

 

 

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