生前贈与を行う場合、民法上の考え方と税法上の考え方の違いが問題となることがあります。

民法の考え方

民法では、生前贈与(贈与)は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずるとされています(民法549条)。

つまり、財産をあげる側が「あなたにこの財産をあげます」といい、もらう側が「はい、頂きます。」といえば、贈与契約は立派に成立することになります。

このように民法では、贈与は意思表示の合致により直ちに効力を生ずるのを原則としています。(ただし、農地の贈与のような第三者の許可が必要となる場合や、停止条件が付されている場合は除きます)

一方で、民法は、贈与契約書などを作成しない贈与(書面によらない贈与)は、各当事者が取り消すことができるとしています(民法550条本文)。

これは、贈与契約書の作成は法律上の効力発生要件等ではないものの、軽率な贈与をすることがないように、書面を作成していない贈与は各当事者が取消すことができるものとしているのです。

ただし、書面によらない贈与でも、既に履行が終わった部分については、取消しが認められません。これは、一旦贈与がなされ引渡しなどがされている以上、取消しを認めるとかえって法的安定を害することになりかねないからです。

要するに、民法では、

  • 贈与は贈与者と受贈与者の意思の合致だけで効力が生ずる
  • 贈与契約書などの書面を作るかどうかは、後日の取消しの問題

としている訳です。

税法上の考え方

ところが、税法上の考え方は、民法とは少し異なります。

まず、贈与の効力が生ずる時期、つまり、贈与を受ける財産を取得したとされる時期についての考え方については、国税庁から次のような指針が示されています。

  • 口頭による贈与の場合:贈与の履行があった時
  • 書面による贈与の場合:贈与契約の効力が発生した時
  • 停止条件付贈与の場合:条件が成就した時
  • 農地等の贈与の場合:農地法所定許可又は届出の効力が生じた時

税務上の考え方では、民法のように意思の合致があればその時点で贈与が効力を生じた(財産を取得した)とは考えず、上記の各時点で贈与があったものと扱われることになるのです。

また、不動産の贈与については、『特に反証のない限り、その登記あった時に贈与があったものとして取り扱う』とされています(相基通1の3・1の4共-11)。

次に、民法上は贈与契約書を作成するかどうかは効力要件ではなく、後日贈与を取消す場合に問題となる程度の位置づけですが、税務の上では、その程度の位置づけでは済まされません。

もし、ある人が1,000万円もの金銭を贈与するのに、契約書も何も作成していない、といった場合、本当にそれを信用できますか。

ホントは別の目的があって贈与したことにしたのではないか?と疑いたくなりませんか?

税務署は、こういった点を非常に重視します。税務調査などがあった場合、贈与契約書がないと、それだけで信憑性が疑われてしまいかねません。

両者の考え方の違いから生ずる問題点

ケース1 現金300万円の贈与を親子間でした場合

親から子への贈与を平成28年12月30日に行う旨の贈与をし、実際の振込をしたのが平成29年の1月4日だったとします。
この場合、上記指針によれば、贈与契約書を作成していない場合には、贈与は平成29年1月4日に行われたものと扱われることになります。そのため、贈与税の申告なども平成30年の申告時期に申告すれば良い、ということになります。一方、贈与契約書を作成した場合には、贈与は平成28年12月30日に行われたものと扱われることになりますから、贈与税の申告は平成29年の申告時期に行わなければならないことになります。
また、このケースで贈与契約書を作成していなかった場合、本当に贈与をしたのかどうか、つまり、贈与ではなく貸しただけではないのか、預けただけなのではないかなどあらぬ疑いをかけられてしまう可能性も否定できません。

ケース2 土地を親子間で贈与した場合

親から子へ土地を贈与したものの、親子なんだし、何となく登記をするのも面倒だからという理由でしばらくの間、登記等をしていなかった場合において、後日、贈与による所有権移転登記を行ったときは、上記指針によれば、税務上は所有権移転登記を行った日に贈与がなされたと扱われることになります。
たとえば、平成10年の10月10日に土地の贈与契約書を作成していたものの、実際に登記をしたのが平成29年の1月10日であった場合、登記手続上は、『平成10年10月10日贈与』と登記されますが、税務上は平成29年1月10日に贈与があったものと扱われます。
もし、この場合も平成10年10月10日の贈与契約書作成時を効力発生時としてしまうと、贈与税の納税義務自体が時効消滅してしまうことになりますから、こういった課税逃れを防止するためです。

まとめ

以上のように、生前贈与については民法上の考え方と税法上の考え方に違いがあり、単純な思い込みで贈与をしてしまうと、後々贈与税などの点で税務当局とトラブルにならないとも限りません。

世に良くいう『見解の相違』で済む話であれば良いのですが、こういった見立ての違いから無申告加算税や延滞税などの負担が生ずることになってはいけません。

生前贈与を行う場合には、税務署などにも事前に相談、確認しておくことが望ましいでしょう。

生前贈与について御検討中の方、お気軽にご相談ください。

 

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