先日、ある不動産の売買の登記手続をお任せいただく機会がございました。

その売買の登記自体は、特に変わった様子のない、ごく一般的なものでした。しいていえば、売主(現在の登記簿上の所有者)がA持分4分の2、B持分4分の1、C持分4分の1と3名の共有になっているということくらいです(共有関係は特に変わったことではありませんが。。)。

このABCの登記は、前所有者Xから「年月日相続」として所有権移転登記を受けていることから、Aは亡Xの配偶者、B及びCはXの子であり、法定相続分どおりに相続登記が行われたようだ、と推測されました。

それはともかく、仲介業者さん曰く、「3人とも決済には同席するし、権利証もありますよ。」ということでしたので、私は安心して準備をしていました。

権利証の話が出たので、念のため私は「今回は3人共有で相続登記をされているようですから、権利証は3人分で3枚あるはずです。当日は3枚全部お持ち頂いてください。」と仲介業者さんにお伝えしました。

ところが、決済の数日前になり、仲介業者さんをから「権利証は1枚しかありません」という連絡が入りました。

さて、これは一体どういうことなのでしょう。

法定相続分どおりの相続登記の申請人

法定相続分どおりの割合で相続登記を申請する場合、登記の申請人となるのは、原則として法定相続人全員です。

登記の手続を司法書士に依頼した場合でも、申請人となるのは、あくまでも法定相続人であり、司法書士は申請人である相続人の代理人という立場で登記申請を行うにすぎません。

一般的には、相続登記は司法書士が相続人の皆さんを代理して申請を行うことが多いのですが、中には、ご自分達でインターネットの情報や書籍を購入するなどして、相続登記を行う方もいらっしゃいます。

こういった場合、やはり原則としては相続人全員が申請人となって相続登記を行うのですが、法定相続分どおりに相続登記を行う場合には、例外的に相続人の一部の方が申請人となり、相続登記を行うことができることになっています。法定相続分どおりの相続登記は、共同相続人全員のために行う保存行為であると解されるからです。

ですから、妻と長男、長女の3人が法定相続人として、その法定相続分どおりに相続登記(妻4分の2、長男4分の1、長女4分の1)を行う際には、3名を代表して長男が一人で相続登記を申請することができます。

登記識別情報(権利証)の通知を受けることができる者

話は少し変わりますが、登記が完了しますと、権利を取得した方には、登記所からいわゆる「権利証」が交付されます。

ただし、平成17年の不動産登記法の改正により、正式には「権利証」ではなく、「登記識別情報通知」という書類が交付される取り扱いとなっています。

そして、この登記識別情報の通知を受けることができる者については、不動産登記法の21条に規定が置かれています。

不動産登記法21条
登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において、当該登記を完了したときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該申請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない。以下省略

この規定では、「申請人自らが登記名義人となる場合に…当該申請人に対し…登記識別情報を通知」するということになっています。

つまり、登記名義人であっても登記申請人でない者には登記識別情報は通知されないのです。

初めにご紹介した売買の件で、3枚あるはずの権利証(登記識別情報)が1枚しかないというのは、Bさんが自分で相続登記申請書を作成して申請人となり、法定相続分どおりに相続登記をしたため、申請人となったBさんにだけ登記識別情報が通知されたためだったのです。

まとめ

ご自身で法定相続分どおりに相続登記を行う際、誰か一人が他の相続人を代表して申請人となり法定相続分どおりの相続登記を申請すると、上記のとおり、他の相続人の皆さんが権利証(登記識別情報通知)の交付を受けることができません。

登記識別情報は、後日その不動産を売却をしたり、担保に入れる際に必要となる書類です。登記識別情報がなくとも所有者(共有者)であるということは否定されるものではありませんから、売却や担保の設定はできるのですが、実際に売却や抵当権設定の登記を行う際には、登記識別情報に代わる書類の作成などに余計な手間やお金が掛かってしまうことになります。

相続登記はしたけれど、権利証(登記識別情報)がない、という事態にならないために、法定相続分どおりに相続登記を行う場合でも、相続人全員が相続登記の申請人となることをお勧めします。

 

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