住宅ローンなどを組まれると、ほぼ100%、購入した土地や建物には、融資先の金融機関のために抵当権を設定することになります。
住宅ローンと抵当権設定は、切っても切れない関係といってよいでしょう。
では、そもそも、この抵当権とはどういったものなのでしょうか?
本日は、そのあたりのことについて、少し掘り下げてご説明したいと思います。
抵当権は非占有型の担保物権です
抵当権は、『非占有担保物権』である、といわれています。
ここで、この一つの単語の中には、実は3つの意味が隠れています。
一つ目は『非占有』、二つ目は『担保』、三つ目は『物権』です。
どれもなんとなくイメージができる言葉ではありますが、実際にきちんと理解できているか、もう一度確認してみてください。
この3つのワードをきちんと理解すれば、抵当権の全体像を自ずと理解することができるのです。
『非占有』とは?
法律上、自己のためにする意思をもって物を所持することを『占有』といいます。
物の所有者がその物を所持しているような場合はもちろん、借りたものを持っている場合や、所有者が借主を通じて目的物を所有している場合などにも占有が生じます。
つまり、所有しているかどうかは別として、ある物を事実的・外形的に支配している状態を占有というのです。
抵当権と同様、お金を借りたときに用いられる方法に『質権』というものがあります。
ざっくりしたイメージとして、質屋さんを思い浮かべて下さい。
お金に困ったときに、身の回りの高価そうなもの(たとえば、時計やバッグなど)を質屋さんに質入れして、お金を融通してもらう、という図式ですね。
この場合、質入れした時計やバッグは、質屋さんに預けてしまいます。
つまり、質権は、債権者に目的物の占有を移す『占有型』ということになります。
一方の抵当権は、目的物の占有を債権者に移すということを必要としません。
住宅ローンを組んで自宅に抵当権を設定したとしても、銀行が自宅を占有する、ということはありませんよね。
通常はお金を借りた本人がその家に住んでいます。
つまり、債務者(抵当権設定者)は債権者(抵当権者)に目的物の占有を移すことなく、そのまま引き続き目的物を使用することができるのです。
この意味で、抵当権は『非占有』型ということになるのです。
『担保』とは?
担保とは、将来生じるかもしれない一定の不利益に備え、あらかじめ補填の準備をすることや既に生じた不利益についての補填をすることをいいます。
担保は、一般的にはお金の貸し借りの場面で多く用いられ、たとえば住宅ローンの際に、銀行がお金を貸し、その代わりに土地や建物を担保に取るということを行います。
このように物を担保に取る方法を『物的担保』などといいます。
また、同じようにお金の貸し借りの場面で、土地や建物を担保に入れるのではなく、返済の資力がありそうな方を保証人に付けるということもあります。
これもまた、貸したお金を債務者自身が返せない場合に備え、あらかじめ決められた保証人が返済の責任を負うことで、債権の担保をしているのです。
このように、同じ担保でも物ではなく人を差し出す方法を『人的担保』などといいます。
担保は、将来生じるかもしれない一定の不利益に備えてその補填の準備をするために設定するわけですから、これを住宅ローンの事例で考えてみると、銀行は、債務者の返済が滞った場合に備えて土地や建物に抵当権を設定するのです。
そして、銀行は、抵当権を設定することにより、万が一債務者の返済が滞った際には抵当権を実行して土地や建物を競売(けいばい)し、その代金から他の債権者に優先的に返済を受けることができる、ということが約束されるのです。
なお、抵当権は、担保の中でも『物的担保』ですから、たとえば、ある方が住宅ローンを組んで新築の建物を建築する際、親御さん名義の土地に抵当権を設定した場合でも、抵当権は人には及んでいないため、返済が滞ることがあっても、人に対して直接返済を迫ることはできず、土地を競売してそこから優先的に返済を受ける、ということしかできません。
『物権』とは?
物権とは、「物に対する支配権」をいいます。
物権の一番代表的なものは、所有権です。
物権は、物に対する支配権ですので、ある者の所有者であれば、「それは私の物だ!」ということを誰に対しても主張することができるのです。
一方、債権とは、「特定の人にある行為をさせることができる権利」をいいます。
例えば、お金を貸した場合、債権者は債務者に対して「お金を返せ!」と請求することができます。
このように、債権とは、ある特定の人にある行為をさせることができる権利のことをいいます。
物権と比べると、少々弱い権利であるという感じがしますよね?
物権と債権の違いを説明する時に、法律の教科書では、「直接性」の有無が異なるという解説がされています。
つまり、物権とは、人を介在することなく、物を直接に支配する権利ですから、その実現のために他人の行為を介す必要がありません。
「それは私の物だ!」というときに、他人の力は必要ありません。
これに対し、債権には、直接性がなく、その実現のためには他人の行為(たとえば、債務者による返済)が必要になるのです。
また、債権では同一債務者に対して同一内容の債権が複数成立することはあります(排他性がない)が、物権は、同一物に対して同一内容の物権は1つしか成立しません。(物権の排他性・一物一権主義)
このように、物権である抵当権は、債権と比べ、非常に強力な権利であるということができます。
まとめ
抵当権は非占有型ではありますが、強力な担保物権です。
抵当権が非占有型という点は、お金を借りる側にとっては、そのまま土地や建物などの目的物を利用し続けることができるという点で、大きなメリットになります。
一方、抵当権が担保物権であるということは、万が一、債務者がお金を返してくれない場合、抵当権者は目的物を競売してその売却代金から優先して返済を受けることができるという強力な権利を持つことになりますから、債権者(抵当権者)にとって大きなメリットになります。
このように、抵当権はお金を借りる側と貸す側の双方に大きなメリットがあるため、現在は住宅ローンなどの場面で当たり前のように利用されているのです。
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