相続の欠格事由
法定相続人に該当する者であっても、以下の場合には『相続欠格事由』に該当するため、遺産を相続する権利を喪失します。
1.故意に被相続人または先順位・同順位の相続人を殺害し(未遂含む)刑にせられた者
「故意」に被相続人を殺害したり未遂の罪で刑に処せられた場合です。
過失で死亡させてしまった場合や正当防衛として罪に問われなかった場合には、欠格事由にはあたりません。
先順位や同順位の相続人に対する殺人の罪などの場合も欠格となります。
2.被相続人が殺害されたことを知っていたのに、告発または告訴しなかった者
被相続人が殺害されてしまった場合に、相続人が犯人を知っていながら告発や告訴をしなかった場合、その相続人は欠格事由に該当します。
ただし、殺害者が相続人の配偶者や子などであったときは、例外的に除外されています。
3.詐欺や強迫により被相続人の遺言作成・変更・取消しを妨げた者
4.相続に関する遺言書を偽造したり変造したり、破棄・隠匿した者
3.4.については、相続について重大な影響を与える遺言書について相続人による不当な干渉を許さない趣旨です。
これらの行為が欠格事由に該当するか否かは、自己の利益のためや、不利益が及ばないようにするためにしようとする意思があったかどうかによります。
最高裁判所の判決でも『相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である』とされています(最判平9.1.28)。
相続欠格の効果
相続欠格の効果は、法律上当然に生じることとされており、相続欠格事由に当たる場合には、遺産を相続することはもちろん、遺贈も受けることはできません。
ただし、相続人が相続欠格事由に該当するかどうかは、戸籍などの記載される訳ではありません。
したがって、遺産相続の手続上は、積極的に相続欠格者であることを証明するような書類が提出されない限り、欠格事由には該当していないものとして扱われます。
相続欠格の効果は、相続開始前に欠格となっていた場合にはその時から、相続開始後に欠格となった場合には、相続発生の時に遡って生ずることになります。
なお、相続欠格者に子がいる場合には、その子が欠格者に代わって相続する権利を取得します(民§887Ⅱ、Ⅲ;代襲相続)。
相続人の廃除
相続欠格に類似する制度として、『推定相続人の廃除』という制度があります。
これは、推定相続人(遺留分を有する推定相続人)が、被相続人に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えたときなどのように、被相続人に対する著しい非行があったときに、被相続人の意思により、相続人としての資格を奪うための制度です。
民法892条において以下の相続廃除を行う為の要件が列挙されています。
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人に対する重大な侮辱
- その他の著しい非行
もっとも、相続欠格事由とは異なり、これらの事由があったとしても、家庭裁判所は必ずしも相続人の廃除を認るという訳ありません。
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