成年後見制度の利用を検討する理由は色々あります。
成年後見制度そのものの目的は、判断能力の不十分なご本人の利益を保護するためであることは、皆さんも十分ご承知のとおりだと思います。
しかし、この基本中の基本がどこかに置いていかれ、ただ判断能力の不十分な方に変わって法律行為を行うことができる代理人だという点だけに焦点を当ててしまうと、まったく見当はずれな話になりかねません。
成年被後見人の居住用不動産の処分と家庭裁判所の許可
成年後見人が被後見人の居住用の不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です。
たとえば、認知症のご本人の生活資金や施設の入所費などに充てるために、本人の所有財産を売却する必要が生ずることもあるでしょう。
こういった場合でも、当該不動産が本人の居住用の不動産(かつて居住していた不動産を含む)であったときは、その売却、賃貸、賃貸借の解除または抵当権の設定その他これに準ずる行為を行うには、家庭裁判所の許可が必要となります(民法859条の3)。
ここにいう「処分」とは、売却はもちろんですが、賃貸借契約を結んだり、抵当権を設定することなども含まれるので、こういった点にも注意が必要です。
よくある事例では、老朽化した母屋を取り壊し、認知症を患う高齢の親御さん名義の土地に、お子さんがローンを組んで家を新築する、というケースなどがあります。
この場合、金融機関はその土地に必ず抵当権の設定を求めますが、いざ、契約の段階で土地所有者と面談をして本人に判断能力が欠けていると判断すると、成年後見人を付けなければ融資ができないという話になります。
しかし、上述のとおり、本人が居住していた建物を壊し、さらにその土地に抵当権を付けるということについては、いずれも家庭裁判所の許可が必要となりますから、その処分行為自体が本人にとって利益とならない限り、この手の話は実現が難しいということになります。
なお、この家庭裁判所の許可は、許可のない場合は取り消しの対象となるといった生易しいものではなく、当該処分行為そのものの効力発生要件となりますから、家庭裁判所の許可を得ずにした居住用不動産の処分は無効です。つまり、家庭裁判所に内緒で処分しても、後で分かればすべてひっくり帰ります。また、背任などの罪に問われることになりますから、絶対におやめ下さい。
また、この許可が得られるか否かは、本人の現在の生活状況や将来の居住環境、財産状況、売却金額の妥当性や売却先等を総合的に判断した上で、家庭裁判所が必要があると判断した場合に限り、認められるものであり、必ず許可が下りるというものではありません。
そのため、判断能力の不十分な方が所有する不動産を処分したいからという理由でご本人に成年後見人を付けるといった動機付けでは、結果的に家庭裁判所の売却許可が得られず、目的を達することができないということがありますので、十分ご注意ください。
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