相続人の中に行方不明の方がいる場合の相続手続
相続が開始した際、法定相続人の中に様々なご事情で行方が分らない方がいることがあります。
しかし、遺産分割協議や各種相続手続の際には、相続人「全員」の合意や協力が必要となります。
たとえ長い期間、行方が分らなくても、その方を除外して遺産分割協議をすることはできません。
では、相続人の中に行方不明の方がいる場合に、実際にどのように相続手続を進め、遺産を分けたらよいのでしょうか。
そのようなケースでは、①不在者の財産管理人の制度を利用するか、②失踪宣告(しっそうせんこく)の制度を利用することになります。
ここから先は、不在者の財産管理人と失踪宣告の手続を中心に、相続人の中に行方不明の方がいる場合の相続手続について説明していきます。
不在者の財産管理人について
従来の住所又は居所を去った者で、容易に戻る見込みのない者を「不在者」といいます(民法25条)。不在者は生死不明であることは要しませんが、生死不明者も不在者であることには変わりありません。
相続人中に不在者がいる場合には、他の相続人は、利害関係人として、不在者の財産管理人の選任の申立をすることができます。
不在者財産の管理人が選任されると、不在者の財産に関する保存行為、目的の物や権利の性質を変えない範囲における利用や改良行為(民法103条)を行うことができるようになります。
ただし、相続財産に関する遺産分割協議を行うことは、保存行為を超え、処分行為にあたるものですから、家庭裁判所の許可が必要となります。
家庭裁判所としては、不在者といっても後日生きて帰って来る可能性がゼロではない以上、不在者に一方的な不利益を受けないように配慮する必要があるからです。
このことは、別の言い方をすれば、他の相続人が不在者であることをいいことに、不在者の取り分を全くないものにするような遺産分割をすることはできない、ということを意味しています。
なお、遺産分割協議の結果、不在者が相続するものとされた財産は、不在者が現れるまでの間、不在者財産管理人が預ることになります。
不在者の財産管理人の選任手続と必要書類
不在者の財産管理人の制度を利用するためには、ご家族等の利害関係人から、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立手続を行う必要があります。
この不在者の財産管理人の選任申立手続に際しては、一般に、次のような書類が必要となります。
- 不在者財産管理人選任申立書
- 不在者の戸籍謄本、住民票等
- 財産管理人候補者の住民票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(通帳のコピーなど)
- 申立手数料として収入印紙800円
- 郵便切手 数百円分(裁判所により異なる)
※事案により、上記以外の追加資料の提出を求められる場合があります。
※事案により、財産管理人へ支払う報酬の予納金が必要となる場合があります。
失踪宣告について
不在者は、行方不明者であっても、いってみれば後に帰ってくることが前提の手続です。
しかし、行方不明者が帰ってくる可能性が極めて低いと想定される場合や、帰ってくることを前提にしたのでは利害関係人に与える影響が大きいケースでは、行方不明者を法律上は死亡したものと扱う方が良いこともあります。
民法では、行方不明者が従来の住所を去ってから7年以上が経過している場合、家庭裁判所に申し立てをして認められれば、行方不明者が行方不明となってから7年が経過した時点で死亡していたとみなす手続があります。
これを「失踪宣告」の制度といいます。
失踪宣告がなされると、行方不明者は法律上は死亡したと同様の扱いになりますから、相続の手続についても、その者が死亡していた場合と同様に手続を行うことができるということになります。
なお、失踪宣告の効果は、あくまでも法律上死亡とみなされるだけであり、後日、本人が戻ってきた場合には、失踪宣告の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
失踪宣告の申立手続と必要書類
失踪宣告の制度を利用するためには、ご家族等の利害関係人から、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立手続を行う必要があります。
失踪宣告の申立手続に際しては、一般に、次のような書類が必要となります。
- 失踪宣告申立書
- 本人の戸籍謄本、住民票等
- 失踪を証する資料
- 申立人の利害関係を証する資料(ご家族であれば戸籍謄本など)
- 不在者の財産に関する資料(通帳のコピーなど)
- 申立手数料として収入印紙800円
- 官報公告のための手数料5,000円
- 郵便切手 数百円分(裁判所により異なる)
※事案により、上記以外の追加資料の提出を求められる場合があります。
不在者の財産管理人や失踪宣告の制度を利用せずに相続手続をする方法
相続人中に行方不明の方がいる場合、遺産分割協議をして財産を分配をするためには、不在者の財産管理人を選任するか、失踪宣告を受けることが必要となります。
では、これらの制度を利用しないと、相続手続が一切できないのか、といいますと、必ずしもそうとは限りません。
正攻法でありながら、これらの手続を利用しないで相続手続をする方法がひとつだけあります。
それは、遺産分割協議などをしないで 法定相続分どおりに相続する 方法です。
法定相続分は、もともと法律の定めに従って相続することに他なりませんから、法律どおりに本人の利益は確保されています。
そのため、法定相続の場合に限っては、不在者の財産管理人や失踪宣告の制度を利用せずに、しかも合法的に相続手続を進めることができるのです。
ただし、法定相続分どおりに相続したとしても、それでは相続手続の最終目標を達成することができないかも知れないという点には、注意が必要です。
たとえば、相続財産である不動産を売却し、お金を分配することが相続手続の最終目標であった場合、法定相続分どおりに不動産の名義変更登記をしたとしても、いざ不動産の売却ということになれば、結局は不在者の財産管理人か失踪宣告の制度を利用しない限り、売買契約を締結したり、お金を分配することはできないのです。
また、「何もしないよりはマシだろう」と取りあえず法定相続分どおりに不動産の名義変更などをしてしまいますと、かえって問題を複雑にしてしまうこともありますので、必ず専門家にご相談の上、今後の手続の方向性を検討するようにしてください。
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